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第3回:ヴァンヌーボのラインナップを徹底解説【ヴァンヌーボという紙を、印刷で深く知るシリーズ】

作成者: スバルグラフィック|2026.7.27

こんにちは、スバルグラフィックのMIYUです。
印刷用紙を選ぶとき、長いあいだ二択がありました。網点をきれいに再現したいならコート紙、手ざわりや風合いを取るならファインペーパー。どちらかを取れば、どちらかを諦める。
相反する2つの課題を解決した紙、それがヴァンヌーボです。印刷適性と紙の風合いを、高い次元で両立させました。
紙の中に空気をたっぷり抱き込んでいるので、厚くて嵩高なのに軽い。分厚いのに手に持つとふわっとする書籍が作れます。そしてインキの盛り方でグロス感が変化する。作り手が意図した質感を、印刷で実現できる。
「ヴァンヌーボを使ってみたいけど、種類が多すぎてどれを選べばいいかわからない」。お客様からよく受ける相談です。カタログに品番のアルファベットが並んでいるのは事実ですが、これは単なるバリエーションではありません。クリエーターからの「もっとこうしたい」という要求に応えてきた、30年分の歴史、その積み重ねです。
今回は、スペック数値と開発の歴史からラインナップの全貌を見ていきます。

「新しい風」が吹き抜けた30年。進化の歴史

1994年にV-FSとF-FSが同時に登場し、2002年にVG-FSとVM-FSが加わって表現の幅が広がりました。2009年には作業性を追求したスムース-FSがリリース。2020年以降はデジタル印刷への対応が進み、LT-FS、RIJ-FS、SIJ-FSが順に登場しています。

質感で選ぶ。5グレードの位置関係

各グレードの違いは、表面の平滑性と印刷光沢の2軸で整理できます。どのあたりを狙いたいかが決まれば、選ぶべき銘柄は絞れます。

 

 ヴァンヌーボV-FS(1994年) 

V=Visual。シリーズのスタンダードで、迷ったらここから始めれば間違いありません。
豊かな風合いと繊細なグロスの、その両方の基準点になるグレードです。暖かみのある手ざわりと、細かくコントロールできる印刷仕上がり。ラフ・グロスという言葉を世に定着させた張本人でもあります。厚みのある書籍からパッケージまで、あらゆるアートワークの土台になります。
数字を見ると、このグレードの立ち位置がはっきりします。色は3種すべてを持ち、厚みは0.17mmから0.44mmまで、連量は8種。他の4グレードが持つ厚みも色も、V-FSはすべて内側に抱えています。VG、VM、F、スムースは、V-FSと同じ土俵の上で表面の性格だけを変えた選択肢。そう捉えると、シリーズ全体の構造が一気に見通せます。

スノーホワイト

ISO白色度 101%

ホワイト

ISO白色度 90%

ナチュラル

ISO白色度 83%

米坪(g/㎡)

122.1

151.2

174.5

203.6

226.8

250.1

273.3

319.8

厚み(mm)

0.17

0.21

0.24

0.28

0.31

0.34

0.37

0.44

四六判Y目 連量(kg)

105

130

150

175

195

215

235

275

ヴァンヌーボF-FS(1994年)

F=Feeling。手ざわりに全振りしたグレードです。
V-FSと同期のデビューですが、性格ははっきり違います。ラフ側に特化していて、表面の凹凸をより残している。指で撫でたときの情報量が多い紙です。紙本来の有機的なテクスチャーを引き出しながら、ラフ・グロスとしての印刷適性は保っています。触覚に訴えたいプロダクト、作品集や紙を主役にしたいDMで強い一枚です。
色はホワイトとナチュラルの2種。白さを競うのではなく、風合いを見せる紙なので、この構成は理にかなっています。

ホワイト

ISO白色度 90%

ナチュラル

ISO白色度 83%

米坪(g/㎡)

104.7

127.9

157

209.4

厚み(mm)

0.15

0.19

0.23

0.29

四六判Y目 連量(kg)

90

110

135

180

ヴァンヌーボVG-FS(2002年)

VG=Visual Gloss。V-FSの特性をベースに、インキの乗った部分のグロス感をさらに高めたチューニングモデルです。
紙の白地はマットのまま、ベタや暗部の艶だけが立ちます。色の再現性も鮮やかで、写真集や美術図録のように、ビジュアルのパンチ力と細部の階調を両方求められる場面で効いてきます。この落差がVG-FSの持ち味です。
2002年、艶を抑えるVM-FSと同時に登場しました。この2つが加わったことで、シリーズは光沢の強弱を明確に選べるようになっています。
色はスノーホワイトとホワイトの2種。艶を見せる紙なので、地色は明るい側に寄せてあります。

スノーホワイト

ISO白色度 100%

ホワイト

ISO白色度 89%

米坪(g/㎡)

122.1

151.2

174.5

226.8

厚み(mm)

0.16

0.19

0.23

0.29

四六判Y目 連量(kg)

105

130

150

195

ヴァンヌーボVM-FS(2002年)

VM=Visual Mat。印刷面をマットに抑えるグレードです。
シャドウの調子をどこまで再現するか。そこにこだわった結果生まれたのがVM-FSです。モノトーンのシャドウ部を狙いどおりに出したいとき、印刷面の光沢は邪魔になります。艶を抑えることで、暗部の階調が読めるようになる。ヴァンヌーボ特有のざっくりした紙肌はそのままに、インキのテカリだけを落としてあります。落ち着いたトーンでまとめたいとき、抑制の効いたタイポグラフィ中心のアートワークにも向きます。色はホワイトのみ、連量は2種だけ。シリーズで最も選択肢が絞られていますが、それは迷いのなさの裏返しです。

ホワイト

ISO白色度 89%

米坪(g/㎡)

151.2

174.5

厚み(mm)

0.19

0.23

四六判Y目 連量(kg)

130

150

ヴァンヌーボ スムース-FS(2009年)

適度な平滑性と高い印刷光沢、そして現場での作業性を追求したグレードです。
シリーズの中では最も表面が整っています。従来の深いラフ感からは少し離れますが、そのぶんしなやかなコシと緻密な肌を持ち、速乾性にも優れる。細かい文字や精密な絵柄が潰れにくく、刷る側としても扱いやすい紙です。ヴァンヌーボの風合いは欲しいけれど、ページ数の多
い商業印刷で安定して回したい。そういう現場の要求から生まれました。
厚みは0.13mmからと、シリーズで最も薄いところまで対応します。ページ物で束を抑えたいときに効いてきます。色はスノーホワイトのみ。

スノーホワイト

ISO白色度 98%

米坪(g/㎡)

104.7

127.9

157

209.4

厚み(mm)

0.13

0.16

0.19

0.26

四六判Y目 連量(kg)

90

110

135

180

銘柄別スペック一覧

グレードの指標を比較したい場合は、この表が早いです。

銘柄名

ISO白色度[%]

厚み(目安)[μm]

特徴

V-FS

SW:101 / W:90 / N:83

165〜430

シリーズの絶対的スタンダード

F-FS

W:90 / N:83

145〜290

最も風合い(手触り)を重視

VG-FS

SW:100 / W:89

150〜285

インキの乗った部分の光沢を強調

VM-FS

W:89

185 / 220

印刷面をマットに抑え、深い黒を表現

スムース-FS

SW:98

125〜255

平滑性が高く、印刷作業性に優れる

※SW=スノーホワイト、W=ホワイト、N=ナチュラル

スペックで逆引きする

求める白の温度感と、紙厚のラインナップ。この2軸で見ると、条件から銘柄を逆引きできます。 

  

ヴァンヌーボDigitalシリーズ

プレートがいらない。データをそのまま出力できる。デジタル印刷の進化は速く、表現できる仕事の幅も広がり続けています。
その流れに応える形で生まれたのが、ヴァンヌーボDigitalシリーズです。1994年からオフセットでラフ・グロス®を確立してきた紙を、デジタル印刷でも使えるようにしました。ヴァンヌーボの語源はフランス語のVENT NOUVEAU、「新しい風」。デジタル印刷は仕上がりが素っ気ないという印象を持っている方にこそ、触ってほしいシリーズです。

なぜラフな風合いと印刷適性が両立するのか

紙の表面を電子顕微鏡で覗くと、答えが見えてきます。


引用:竹尾様WEBサイトより引用
http://takeopaper.com/finder/brands/ventnouveau-digital/index.html

一般的なマットコート紙は、光を乱反射させるために大小さまざまな無機填料を使っています。対してヴァンヌーボの表面にあるのは、球状の有機ピグメント。しかも中空です。この構造が、均一で軽く、手で触れたときの自然な感触を生んでいます。
球状の粒子だけでは印刷適性が落ちます。そこで粒子の隙間に細かな無機填料を入れ、インキ転写率を上げている。ラフな風合いと印刷適性という、本来ぶつかる二つの性質が同居しているのは、この二層構造があるからです。
表面の三次元粗さを測ると、マットコート紙より凹凸の高低差が大きいことが数値でも出ます。手ざわりの正体は、この高低差です。

ヴァンヌーボLT-FS(2020年)

HP Indigo デジタル印刷機認証紙。1色5連量。
HP Indigoは液体トナー「HP Indigoエレクトロインキ」を使う電子写真方式です。粉体トナーに比べてインキの皮膜が薄く、紙の風合いを潰しません。ヴァンヌーボと相性がいいのは、この薄さのおかげです。
LT-FSは特殊表面加工でHP Indigoに最適化してあります。認証テストでは定着性、搬送性、ブランケットへのダメージという3項目すべてで高評価を得て、認証紙として認定されました。実務で効くのはこのあたりです。

  • 網点再現性と印刷濃度が上がる
  • 印刷前のプライマーがいらない
  • ダート(夾雑物)がマットコート紙の30分の1以下
  • インキ定着時間がV-FSの約4分の1

もうひとつ、地味に大きい利点があります。LT-FSはオフセットにも対応しています。書籍なら初版はオフセットで刷り、中小ロットの重版はデジタルで。同じ紙のまま刷り分けられるので、版面の印象が揃います。

ヴァンヌーボRIJ-FS(2022年)

UVインクジェット対応のロール紙。1色1連量。
UVインクジェットは、ヘッドを左右に動かしてインクを吹き付け、その場でUVを当てて硬化させる方式です。ロール紙が使える機種があるので、バナーや大判ポスターに向きます。
大きく引き伸ばした瞬間に紙の質感が消えてしまう、ということが起きにくいのがRIJ-FSです。ヴァンヌーボのラフな風合いと、インク硬化による強い印刷グロス。その両方を、サイズを問わず空間デザインの世界へ持ち込めます。

ヴァンヌーボSIJ-FS(2023年)

高速インクジェット方式に対応した銘柄です。1色展開。
家庭用プリンタはヘッドが左右に動きますが、高速機は違います。ノズルが線状に並んだラインヘッド構造で、その下を紙が走り抜ける。ヘッドを動かさないぶん、速い。そして点の密度で階調を表現するFMスクリーンなので、高精細です。
インクジェットで問題になるのが白抜けです。インクが紙に着弾する位置と量がずれると、ベタの中に微細な抜けが出る。SIJ-FSは表面設計でこの着弾をコントロールし、白抜けを大きく減らしています。高速インクジェットでも、ヴァンヌーボらしいグロス感と鮮やかな階調が残ります。

まとめ

30年でここまで枝分かれしましたが、幹は1本です。ラフな風合いと印刷グロスを両立させる、という設計思想。V-FSがその基準点にあり、他のグレードは同じ土台の上で表面の性格だけを振ってあります。
選び方も単純です。まず質感の軸で当たりをつける。平滑に寄せるならスムース-FS、ラフに振るならF-FS。艶を立てるならVG-FS、抑えるならVM-FS。迷ったらV-FS。そのうえで白色度と厚みの条件を重ねれば、銘柄はほぼ一意に決まります。
オフセットで決めた質感を、デジタルでも引き継げるのがDigitalシリーズです。初版と重版、シートと大判、方式が変わっても紙の印象を揃えられる。これは制作物のシリーズ展開を考えるときに効いてきます。

MIYUのひとこと

どんなヴィジュアルを紙で表現したいか。そこが決まっていないと、銘柄も白色度も厚みも比べようがありません。
VM-FSは光沢を抑えてシャドウの再現性を高め、VG-FSはグロス感をMAXまで引き出してリアリティを伝える。目指す姿は正反対でも、どちらもヴァンヌーボなんですね。