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第2回:ラフ・グロス®というカテゴリーを解剖する【ヴァンヌーボという紙を、印刷で深く知るシリーズ】

こんにちは。スバルグラフィックのMIYUです。印刷会社で働いていても、ラフ・グロス®を正確に説明できる人は意外と少ない。「ラフなのにグロス、でしょ」で止まっている。
でも、私たちが毎日インキをのせている相手だ。その紙が何を解決するために生まれたのか、どうやって作られているのか。そこまで知ヴぁって、はじめてこの紙を活かせる。素材を知らずに、素材の力は引き出せない。
第1回はヴァンヌーボが愛される理由を書いた。今回はその核心、ラフ・グロス®を分解する。

 相反するものを、一枚に同居させた 

ラフ・グロス®は竹尾さんの登録商標だ。ざらっとした「ラフ」な手触りと、印刷面に出る「グロス」な発色。この二つを一枚に同居させたカテゴリーを指す。
紙づくりの理屈では、これは両立しない。
紙の表面が粗いと、光が乱反射する。インキは紙の内部に沈む。結果、彩度もコントラストも落ちる。だから「紙の風合い」を立てれば「印刷の再現性」が落ちる。逆もまた然り。長いあいだ、そういうものだった。
ヴァンヌーボがリリースされたのは1994年。長い開発期間を経て世に出た紙だ。
当時、写真もイラストも高精細に刷りたいという要求と、紙そのものの質感や温かみを活かしたいという要求が、同時に高まっていた。ところが従来のファインペーパーは、風合いは豊かでも、インキが沈んで発色が鈍く、網点の再現も甘い。逆にコート紙は、発色も網点再現も申し分ないが、紙らしい表情がほとんどない。どちらを選んでも、片方を諦めることになる。

この二律背反に、竹尾さんの開発チームは長い時間をかけて答えを出した。

それがヴァンヌーボだ。

  コート紙 従来のファインペーパー ヴァンヌーボ
(ラフ・グロス®)
印刷再現
ラフな手触り ×
グロス感
×

 

紙の質感を残したまま、インキを表面で受け止める。表面を均一に覆い隠すコート紙とは、まったく逆の発想だ。当時これがどれだけ画期的だったかは、30年経っても代表格の座を譲っていない事実が語っている。

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表面を「波」で捉えると、性格が見えてくる

ラフ・グロス®にはヴァンヌーボ以外にも銘柄がある。それぞれ性格が違う。

表面を「波」で捉えると、違いがつかみやすい。この波は、そのまま指に伝わる手触りだ。大きくうねる紙は指先にはっきり凹凸を返し、細かい紙はさらっと繊細に触れる。見た目の波と触感が、そのままつながっている。

ヴァンヌーボV-FS ── 大きなうねり。ラフ・グロスのパイオニアで、5銘柄の中でもっともラフ感が強い部類。手触りの存在感が際立つ。高級カタログ、書籍のカバーや帯に幅広く使われる。

Mr.B ── 細かな凹凸。ラフ・グロス系で最高峰のグロス感を持つ。発色の強さが武器で、ポスターなど遠くからでも目立たせたい制作物に向く。

ミセスB-F ── 落ち着いた面間。きめ細やかで、この系統の中では比較的平滑度が高い。網点の再現性が高く、グラデーションのような繊細な表現を得意とする。冊子や写真集の本文用紙におすすめ。

 どちらが上質、という話ではない。作りたいものに、どの波が合うか。それだけだ。この見方を持つと、紙選びが「値段の高い順」から解放される。デザイナーやアートディレクターが、狙った表現から逆算して紙を指名できるようになる。

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ラフな風合いと印刷再現性が両立する理由

答えは塗工方式にある。何を使って、どう塗るか。ここで紙の運命が決まる。
コート紙のような一般的な塗工紙は、塗料を全面に均一にのせる。表面をびっしり覆い、そのあと艶出しの工程で平滑に仕上げる。だから平らでツルツルになる。発色は抜群だが、紙の表情は消える。

ヴァンヌーボは、ブレードコーターで塗る。

原紙に塗工液をのせ、しなる金属製のブレードを押し当てて、余分を掻き落とす。塗料で覆い尽くすのではなく、削って仕上げる。この「削る」制御があるから、紙の凹んだところには塗料が入り、出っぱったところは薄く残る。紙の起伏を殺さずに、インキを受け止める面だけをつくれる。風合いと印刷適性が両立するのは、この掻き落としの妙による。

塗工方式が変われば、紙の性格も変わる。同じラフ・グロス系でも、たとえばエアラスはカーテンコーターという方式で作られる。塗料を上から垂らし、嵩高な紙面の凹凸の隅々にムラなく載せる。日本に一台しかないと言われる特殊な設備だ。ブレードで削るヴァンヌーボと、垂らして載せるエアラス。作り方が違えば、仕上がりの表情も変わる。

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もう一つ、ラフ・グロス系は紙の中に空気をたっぷり抱えている。だから薄いのに、ちゃんと厚い。
手に取るとよくわかる。ふっくらして、軽い。指で押すとほんの少し沈むような、やわらかさがある。同じ重さのコート紙より明らかに厚みがあって、それでいて重くない。このソフトでエアリーな手応えが、印刷物としての存在感をつくる。

印刷の再現性と、この空気を含んだ質感。両方がそろっているから、デザイナーやアートディレクターが思い描いた発色や手触りを、イメージのまま印刷物に落とし込める。

工場で紙に触れるたび、「なんでこの紙はこんな手触りなんだろう」と思うことがあります。調べていくと、ちゃんと理由がある。その理由を知ると、紙の選び方まで変わってくる。ファインペーパーって面白いな、と最近よく思います。