「ユポは乾くと赤が浮く」
「だからM版(紅)を抑えて刷るんだよ」
昭和〜平成中期にかけて、
ユポ=〝赤浮き〟〝赤かぶり〟しやすい紙
という“現場の常識”が確かに存在しました。
では――。
それは本当にユポ固有の欠点だったのか?
令和の印刷環境でも起きるのか?
今回、油性オフセット・UVオフセットの両方でテストし、測色値と見た目の両面から改めて検証しました。
多くの印刷オペレーターが経験してきたのは、
という現象でした。
その結果、「M版を抑えて」「C版を盛る」
という“感覚的な補正”が広く行われていたのです。
しかしこれは、ユポではなく “当時の油性印刷の条件” が生み出した現象だった……という可能性が高いことが、最新の実測と技術資料から見えてきました。
印刷条件:Japancolor2011準拠
測色条件:C40% / M31% / Y31% のグレーを測色機で計測
| 印刷方式 | 用紙 | グレード | インキ |
| 油性オフセット | OKトップコート135kg |
基準用紙 |
DIC Fusion G Neo |
| 油性オフセット | スーパーユポ FRBW#130 |
テスト用紙 |
DIC Fusion G Neo |
| UVオフセット | OKトップコート135kg |
基準用紙 |
DIC HR100N |
| UVオフセット | ニューユポ FGS#130 |
テスト用紙 |
DIC HR100N |
| 用 紙 | L* | a* | b* |
| OKトップコート 135kg | 62.10 | -0.65 | -1.15 |
| スーパーユポFRBW #130 | 63.20 | -0.92 | -0.65 |
■左 OKトップコート ■右 スーパーユポFRBW➡ 結論:油性オフセットでは〝赤浮き〟は再現しない。
| 用 紙 | L* | a* | b* |
| OKトップコート 135kg | 63.80 | -1.25 | -0.35 |
| ニューユポFGS #130 | 62.60 | -1.32 | +1.20 |
➡ 結論:UVでも〝赤浮き〟傾向はまったく見られない。
■左 OKトップコート ■右 ニューユポFGS
ここでは、歴史的背景と印刷技術をもとに、原因を大きく3つに整理します。
当時の印刷条件は、いまとはまったく違うものでした。
スーパーユポが登場する前、ユポに印刷するときは一般の油性オフセットインキではなく 必ず “ユポ用インキ” を使うことが前提 でした。
ユポ公式トラブルシューティングには、次のように明記されています。
つまり、当時のユポ印刷は “乳化しやすい専用インキ” を使うことそのものがリスク要因 でした。
さらに――
当時の印刷機は、いまのように高度な湿し水制御や温度管理があるわけではありません。
これらが複合するとどうなるか?
このように、“ユポ=赤くなる” と語られてきた背景には、
専用インキと旧世代の印刷機という条件が複合していたことが大きいのです。
いわば、「ユポ用インキ前提の時代」そのものが、赤浮き・赤かぶりの土台をつくっていたという見立てになります。
次に、実際に色が赤方向へ転んだメカニズムです。
インキと湿し水が「適正乳化」しているときは安定して刷れますが、湿し水が多すぎると 過乳化 が起きます。
結果として、
過乳化 → M版の濃度低下 → M版を盛る → ドット太り → 赤浮き・赤かぶり
という負のループが発生していた、という仮説が成り立ちます。
もうひとつは、ユポという素材側の特徴です。
ユポはポリプロピレン(PP)ベースの合成紙で、
という、紙とはまったく違う性質を持っています。 
普通のコート紙であれば、
といった「緩衝作用」が働きますが、ユポにはそれがありません。
そのため、
過乳化によってインキ皮膜が不安定になり、
濃度を補うために M版だけインキ供給量が上がり、
結果として M版の網点が太って見える状態。
このような変化が、そのままストレートに目に見えてしまう 素材です。
上記3つがそろっていた昭和〜平成中期の環境だからこそ、
「ユポは乾燥すると赤が浮く」「M版を抑えて」という〝赤浮き〟〝赤かぶり〟の“都市伝説”が生まれた、という背景になります。
当時の課題だった印刷環境や条件がほぼ改善されたからです。
スーパーユポ登場以降、一般油性インキが使用可能になり、そこから現代インキの成分はさらに進化。
昔のように過乳化→ M版の濃度低下 → 盛り過ぎ → 赤浮き
という負の連鎖が軽減された。⸻
→ 過乳化の発生が激減
印刷機そのものが世代交代し、技術が大きく進化したことで、それまで長年悩まされていた湿し水まわりの問題が一気に解決しました。
→ これらの進化により「適正水量」を高精度で維持できるようなった
ユポ自体の品質も、この20年で着実に進化しています。
ユポ社の技術資料でも、以下のような改善が継続的に行われてきたことが示されています。
→ その結果、インキ皮膜がムラになりにくく、色の見え方も非常に安定するようになりました。
JapanColor という“全国共通の色基準”が普及したことで、
印刷の色づくりは職人の経験頼りから デジタル管理・数値管理 へ大きく進化しました。
その結果:
→ 要するに、
“ユポだから赤くなる” のではなく、標準化された色管理の中で、ユポも他の紙と同じように安定して刷れる時代になったということです。
ここまで紹介した5つの改善は、どれか単独ではなくすべてがミックスして印刷品質を大きく押し上げました。
その結果:
進化したのはユポだけではありません。印刷そのものが世代交代レベルで底上げされ、その積み重ねの結果として “ユポが普通に印刷できる時代” が当たり前になった、ということです。
最新の実測と技術背景が示すのは一つ。
現代のユポ印刷では、赤浮き・赤かぶりはほぼ起きない。
つまり、
〝赤浮き〟は ユポ固有の欠点 ではなく、
「当時の印刷環境 × ユポ用インキ」が生んだ歴史的現象 だった。
今のユポは、一般のオフセット印刷用インキで安定して印刷可能な、安心できる素材です。
「先輩オペレータから“ユポは赤くなるよ”って、聞いたことがあったけど、
今回こうして実際に測ってみて、
ユポが悪かったわけじゃないんだな……って、素直に思いました。
変わったのは、素材だけじゃなくて、印刷の仕組みも、機械も、インキも、ぜんぶ。時代とともに進化していたんですよね。
だから今のユポは、ちゃんと“普通に刷れる”。
むしろ扱いやすいくらいです。
紙も印刷も、見え方が変わっていく。
ちょっとしみじみしながら、
アップデートし続けるって大事だなぁと感じました。
➡ 第1回:ユポってどんな紙?水に濡れても破れない不思議な魅力に迫る!
➡ 第2回:ユポって実はエコなの!?気になるお値段と「高いワケ」を解説!
➡ 第3回:印刷トラブル回避!ユポ印刷のココがポイント!
➡ 第4回:ユポを使った製本はムズかしい?成功のカギは紙目と折!
➡ 第5回:ユポ紙で「+α」の価値を!活用術と〝正しい捨て方〟
➡ 第6回:書けない?書ける?ユポの筆記特性を徹底検証